11.在宅医療を支えるボランティア社会
ホームヘルスケアといわれる在宅で治療する医療が90年初頭から盛んになり、この関連企業は巨大なビジネスに成長している。在宅医療に必要とされる療養器具器械は、医者が必要と認めた場合のみ政府が負担している。また在宅医療では訪問看護師と理学療法士の治療費は全額補償されるが、医者の費用は含まれない。それでも費用は1日40ドルと安くすむ医療で、お年寄りなどの長期にわたる病気は在宅医療に切り替えられている。HIT(ホーム・インフュージョン・テラピー)は院外処方せんによるもので、ふつう1週間単位で契約した薬局から届けられる。点滴薬などはクーラーボックスに入れて配達され、家庭では冷蔵庫に保管している。メディケア対象者の静脈注射、免疫抑制剤、点滴薬などの費用は保険給付の対象になっている。
患者の世話はコミュニティ内のボランティア活動に頼る部分が大きく、食事の世話、投薬、洗濯、買物代行、散歩、身の回りの世話などが近隣の人々によって行われている。この分野に目をつけたのが退職した看護師たちで、地域毎に組織化されたビジティング・ナースセンター(訪問看護師協会)が活躍している。これはコミュニティ内のボランティアと異なり有料だが、病院から患者を追い出し在宅医療に切り替えることで、その費用は病院の10パーセント程度におさまっている。この医療システムは宗教観の違いもあろうが、健康人が考えるほど悲観的なものではない。病院にいても医者の診察は1日にわずか1〜2分といったところ。
「ボブさん、きょうは顔色が良いね。早く退院できるよう頑張りなさいよ」
医者は看護師の測定した血圧表と体温の変化を見て行ってしまう。部長の回診など週に一度あれば良いところだ。残りの23時間28分は壁のしみと消毒薬の臭いに囲まれた生活が続くのである。
アメリカにおける医療は、病院で人生の終末をじっと待つのではなく、自宅へ戻り人生最後の身辺整理や好きな趣味を生かした生活をおくるよう変化している。釣りの好きな人は一週間分の点滴薬をクーラーボックスに入れて湖などへ出かける。必要に応じて酸素ボンベをつけながら、自然に囲まれた静かな時間を夫婦で過ごすのだ。抗ガン剤などの点滴投薬は1日2回、定期的に自分で行っている。また副作用などで食事の入らない人は、経管注入によって栄養食を胃まで注入する。こんな医療技術をホームパレンテラルとかホームエンテラルといい、巨大な製薬企業がこの分野に参入している。在宅医療に欠かすことのできない医療用のベットや車イスを貸し出す専門業者も町のあちこちに出店していて、なかでも500坪の売り場面積をもつ「ヘルスンホーム」や、スプリングフィールドの「テイクグッドケア」はベンチャービジネスにのって沢山の客を集めている。