27.マネージドケア改革が薬局に及ぼす影響
早朝、マンハッタンにあるホテルのレストランで『ニューヨークタイムス』を斜め読みしていたところ、興味ある記事に目が止まった。『ドラッグストアの反逆』と書かれたこの記事の内容は、「マネージドケアと呼ばれる管理医療が急速に進んでいて、これによる薬剤費削減に従っていては、薬局経営が成り立たない。よって、薬剤師のキーンさんはマネージドケアの処方せんを拒否した」というものだった。
マネージドケアとは、膨れ上がる医療費を抑制するために、コストの安いHMOやPPOに移行させたり、従来からの出来高払いの医療を定額払い方式に変更する管理医療をいう。その調剤版がPBM(薬剤費償還管理機構)という組織で、使える処方せん医薬品に枠組みを設けたり、処方せん調剤の利益を20パーセントに抑え込むなどの圧力が生じている。20パーセントの利益では採算割れをきたしてしまい、薬剤師の時給にもならない。
ペンシルベニア州に本部を置くライトエイドでも、PBMの処方せんをボイコットしたことがある。「当店ではメドコの処方せんは扱いません」 ワシントンポストに掲載された意見広告は衝撃的だった。ワシントンDCに隣接するメリーランド州政府職員を会員に持つメドコは、ライトエイドのボイコットにあい大打撃を被った。メドコは直ちにライトエイドの提訴に踏み切った。薬をめぐる利権争いは法廷での泥仕合に発展した。だが、巨大な薬剤費償還管理機構のPBMに反旗をひるがえすには、自らが影響力を与えるだけの企業に成長するしかないことを、ライトエイドは身をもって知らされたのである。
このキーンさんの経営する薬局はホテルの近くにあったことから、彼が起こした「不可解な行動と問題点」について話を聞きたく、アポイントメントをとりつけた。彼が話してくれた内容は、私たち日本の薬局にも、じわじわと影響を及ぼしてくる問題と思われる。そこで新聞記事と彼とのインタビューを交えながらレポートした。
ニューヨークのマンハッタンでニュートン・ティンマーマン薬局を経営するマーティン.J.キーンさんは、20年近くにわたって薬剤師としての職能に情熱を燃やし続けてきた。キーンさんは、この薬局を存続させるための考えられる全てを試してきたと言う。なかでも処方せん調剤には人一倍の注意をはらい、独自の方法で安全の確認を行ってきた。
この薬局は1869年創業の古式ゆかしい店で、レキシントン・アベニューと交差する62番街と63番街の間にある。一歩裏通りに入ると、高層のオフィースビルが林立するマンハッタンのまっただ中で、東京でいうなら、さしずめ銀座一丁目といった旧繁華街。むかしは有名ブランド店や高級コンドミニアムが軒を連ねていた所だ。しかし、彼の専門技術はマネージドケアの無情なコストダウンとチェンドラッグストアの進出によって苦戦を強いられてきた。
キーンさんと彼のパートナーは、今まで目まぐるしく変化する医療改革に対して、じっと打たれるように我慢してきたと言う。だが、彼はついに耐えきれずマネージドケアに対して反逆を始めたのである。
具体的には、6月1日からマネージドケアの保険カードを認めないことにした。その理由は、マネージドケアから支払われる調剤金額があまりにも少なく、このままでは顧客へのサービスを低下させるか、廃業をじっと待つしかなかったからだ。マネージドケアの処方せんを拒否すると、5,000人の固定客のうち250人を失うことになるという。それでも彼は自らが生き延びることに賭けたのだ。
「医療費削減の波は、私たちの利益に被さってきました。そればかりではありません。友人のひとりは、初めからマネージドケアの指定薬局から外されてしまったために、処方せん客の半分は返ってしまいます」と、キーンさんは言う。
「保険業者から償還される金額は年々減少しているし、マネージドケアに加入する顧客の比率は近年増大しています。そんな状況にも関わらず、この3月からはマネージドケアの処方せんフィーが、2ドル50セントに減額されたのです」と、キーンさんは熱っぽく話す。
「その利益の圧縮は11人いた従業員を2人レイオフし、未婚の薬剤師の平均的な仕事量は75枚の処方せんをこなさなければならない状況になっているのです。ニューヨークに隣接するニュージャージー州の薬剤師会は、マネージドケアの処方せんフィーを1枚につき、せめて3ドルを支払うように頼むことさえしたのです」