32.議会が処方せん薬価抑制法案を検討
メディケア改革法案の成立で急速に浮上してきたのが、既に企業が提供している退職者向けの処方せん薬保険プランの取り扱いである。メディケアで処方せん薬がカバーされるようになると、退職者向けに処方せん薬保険プランを提供してきた企業が、いっせいにそのプランを廃止するのではないかと推測されている。推計440万人の退職者が処方せん薬保険プランを失うと、メディケアに依存する退職者が増え財政負担が予想以上に重くなる可能性が心配される。そこで、既に退職者に処方せん薬保険プランを提供している企業に補助金を提供し、処方せん薬保険の維持を依頼するという案が真剣に議論されているというが、少額の補助金でメディケアの財政負担が軽くなるのなら構わない、という理屈が国民から理解されるかどうか…。
ところでアメリカの医薬品売上高の伸びは、日本やヨーロッパに比べて格段に大きいものがある。欧州主要5カ国は、前年と比較して平均8パーセントの増加。日本は6パーセント増だったのに対して、米国の伸び率は15パーセントに達している。米国の増加率は、1992以降10パーセント前後であったものが、99年以降急激な上昇率となっている。その理由は、高価格になりがちな新薬の市場投入が続いているうえ、人口の高齢化で需要が増加しているからだ。
とくに高齢者向けの処方せん薬が、物価上昇率を大幅に上回る率で増加しており、必要な医薬品を購入できない事態も生じている。そのため、製薬大手は好調な売上を背景に、年率20パーセントを超す増収が続いており、この増益分を新薬の開発費や消費者向けの広告費に充てている。
米国では処方せん薬の価格設定は自由で、基本的には需給関係で決まる。しかも新薬を開発した場合は、一定期間特許で守られるため、供給者側である企業が価格設定上有利な立場に立つ。これが一段の販売拡大につながるという循環を生んでいるのが、米医薬品業界の実状である。一方、FDA(米食品医薬品局)の新薬審査期間が、欧州や日本に比べ短いため、新薬を次々と投入しやすいことも、販売拡大の一因になっている。
このような医薬品の価格の急騰に対して、消費者団体などは「医薬品会社が、利幅の大きい高額な製品の開発に偏重していることが、価格上昇の原因となっている。国民の健康を守る医薬品はもっとリーズナブルな価格で提供すべきだ」と、批判を強めている。米健康保険協会(HIAA)によると、「このままいけば、今年度(2004年)には2、120億ドルに増加するだろう。このため、医療保険料の値上げは必至となり、保険未加入者は高額医薬品を購入できなくなる」と警告している。
消費者団体などからの批判を受け、議会では医薬品の価格抑制に向けた動きが強まっている。下院では民主党が、高齢者向けの医薬品価格を40パーセント引き下げる法案を提出した。上院では、カナダからの格安な処方せん薬の輸入を認める法案に同意する議決を行っている。
このように社会悪の矢面に立たされている医薬品企業だが、新メディケイドの導入に先駆けて自社発行の「処方せん薬割引カード」の更なる拡大をすすめている。これがファーザー社の「ファイザー・シェア・カード」やイーライリリー社の「リリー・アンサーズ・プログラム」である。