43.処方せんの支払を拒否しはじめた保険会社
医療は聖域とも云われてきたが、近ごろの医者たちは提供するサービスに見合わないほどの高い料金を請求したり、自己の利益のために不必要な検査を自分が関連する検査機関で行わせたりしている。患者がカゼをひいて電話でアドバイスを受けた程度でも、1週間後には200ドルもの請求書が届くことは一般常識とされるアメリカなのだ。医療訴訟が心配される事態になると、自分の患者を診療所に回したり、職権利用のもと医療価値は最低だが一番高価な処置を承諾するよう勧めたりする。
最近、非営利団体医療組織のブルークロス・ブルーシールド・アソシエイションが9,000件の手術について調査を行った。この報告によると子宮摘出と扁桃腺摘出の20%が不必要な医療であったことが確認されている。ハーバード大学が行った調査では、ニューヨークの病院で治療を受けた3万人のうち4%の人が医療過誤を被り、その14%近くが死亡していたと報告している。この結果が全米の平均値だとすれば、アメリカでは年間10万人が医療過誤で死んでいる計算になる。ちょうど、280人乗りの大型旅客機が毎日墜落しているようなものだ。
さらなる問題点指摘したい。保険会社では保険料を二重取りしているのである。医療保険の契約者には、わずかな基本補償に対して高額な保険料を請求し、医療過誤保険料として医者からは法外な掛金を受け取っている。もし、被保険者が保険セールスマンの前でクシャミでもしようものなら、保険料は値上げされるし、掛金の高さに不満でも云おうものなら、即座に保険契約を解除されることになりかねない。
ごく一般的な家族医療保険の年間基本料金は5,600ドルで、年齢や過去の職業、以前の健康状況、あるいは危険要素などの変数が加味されると、保険料は天井知らずになることに注目しておかねばならない。その上、大きな問題としては、治療継続中の患者が職場を変えると、保険会社から医療費の支払いを拒否されることもしばしばだ。これは米国の中堅サラリーマンにとっての大きな不安となっている。保険会社としては医療費負担の大きい重症患者の保険を拒否するために、「先在の健康状態条項」を適用し、「危険選択条項」を引っぱり出してくることになる。
薬局を経営されている人達にとっても、大きな難題が降り掛かりつつある。確かにアメリカは医薬分業が確立された国の一つだ。医者からの処方せんに基づいて調剤されたクスリの代金は、調剤技術料も含めて保険会社が支払うわけだが、近ごろでは自営薬局の請求額が他業態であるスーパーマーケットやディスカウントストアなどと比較して高いことから、保険会社によっては支払拒否するところが出てきた。ロサンゼルスのオレンジ郡で120坪ほどのハンターファーマシーを経営するワトソン氏は、「開業医が増えてきたのはいいんだが、医者は直接クスリを出すようになってきたし、うちで扱えない処方せんが随分と増えて困ってるよ」と、個人薬局経営の将来に不安を隠しきれない。扱えない処方せんとは、ワトソン氏の調剤技術が未熟であったり備蓄薬の問題ではない。彼の薬局で調剤した処方せんの支払を拒否されるということなのだ。