訴訟天国とも言われるアメリカでは、訴訟の決着次第では多額の賠償金を手にすることが出来る望みを誰しもが持っている。医者をはじめとする医療関係者は、常に、どの患者も訴訟の原告になる可能性があることを考えながら治療にあたっている。ひとつミスをおかすと、悪徳弁護士がやってきて医療過誤の令状と数百万ドルの示談書を見せつけることになる。どんな医者にもあることだが、咽喉や心臓の外科手術など、危険性の高い処置を専門としている医者の場合、よく起こるケースなのだ。
これらの専門医は、医療中に作成された一枚のカルテが、医療過誤を立証する決定的証拠を弁護士が捜し出す詮索の対象になることを、今までの苦い経験から十分に知っている。事実、医者は患者を治療するにあたって、どこからも突っ込まれることのないよう、同じような検査を何度も繰り返し行う理由の一つになっている。彼らはこのような行為を自衛的医療と呼んでいるが、目的は訴訟に対する唯一の防衛手段なのだ。
フォーブス誌の中で、スリー・リバース心臓病院のロナルド・ペレグリニ理事は次のように述べている。「医療過誤保険料を含む自衛的医療は、たぶん私どもの患者が支払う料金の30%にも上るでしょう。また、アメリカ全体では、医療過誤訴訟とその弁護料に、年間10億ドル以上のコストがかかっています。そして、この膨大な額は国民の肩にのし掛かっているのです」
保険会社もこの事実を十分承知しているはずで、だからこそ医療過誤保険料が着実に上昇を続けているのだ。総じて、アメリカ人は医者を政治家と同じようなものだと考える傾向がある。一般的に医者は鼻持ちならない人物だと思っているが、いざ、具合いが悪くなって面と向かうと、尊敬される存在に変わるのが常だ。医者は患者にシャツを脱がせ、採血し、レントゲン写真を撮り、たんを吐くように指示する‥‥。患者は何を言われても素直に従うことになるのだ。患者は医学校を卒業しているわけでもないし、医学知識もないのだから、血液検査の必要があると言われれば、黙って牛乳ビン半分近い血液を抜かせることになる。
検査には多額のお金を伴うものだが、結局は保険会社が支払うわけだから無関心ということになる。当然のこととして、医者がしくじると、弁護士が患者の苦痛を和らげるために、数百万ドルの訴訟を起こす手助けをしてくれこととなる。アメリカには91万人からの弁護士がいて、その数は国民318人当たり1人の勘定になる。ちなみに、日本では国民7、313人に1人といった少なさである。弁護士事務所では激しい競争が行われていて、一般住民まで巻き込んでの商売をしている。