50.カプセル剤の販売を禁止
ペットを飼っている人なら理解できるが、愛玩動物はこまめにシャンプーする必要がある。月曜日は朝から青空が広がり、久しぶりに気分のいい日だった。ご主人を送りだした後、ジェーンは山のようにたまった洗濯物を片づけ終え、たまたま子供のように可愛がっていた猫ちゃんのシャワーを思いついた。ふだんから週に2回のシャンプーは欠かさないが、朝食の時ひざの上で感じた臭いが気になったのである。
長い毛を丹念にリンスした後、バスタオルで包むようにしてドライヤーで乾かすのがいつものやり方だった。この日、ジェーンはアイデアに富んだ素晴らしい乾燥方法を思いついた。つい先週のことだが、ジェーンのご主人が彼女のために電子レンジをプレゼントしてくれたのだ。使ってみるとこんな便利なものはなくジェーンはことのほか気に入っていた。
カゼを引かしては可哀想だと、猫ちゃんを電子レンジで乾かして上げようと思いついたのである。まだ、使い方に未熟だったジェーンは説明書を良く読み直したのだが、そこには猫を電子レンジに入れてはいけないと書かれてなかった。
「チーン!」 悲劇が実際に起きてしまったのである。
常識で考えれば…、そんな馬鹿な…、と先生方は思うかもしれない。しかし、私たちの身近にある薬についてだって、食間と云われたから食事をしながら服用したという人もいるし、坐薬と書いてあるから座って飲んだ人もいるご時世である。この電子レンジを作ったメーカーは、多額の損害賠償金を支払ったばかりでなく、新聞を使って消費者に謝罪をした。以後、製品には「電子レンジの中には生き物を入れないで下さい」と、注意書きを明記したのである。
もっと、薬局にとって身近な大衆薬の事件を紹介しよう。1983年にシカゴでおきた大衆薬毒入り事件は、まだ先生方の記憶に新しいことだろう。鎮痛剤のタイレノールカプセルにシアン化合物を混入された事件で、9人の尊い命が失われた。犯人は捕まらないまま、マックネイル社は多額の損害賠償に応じざるを得なかった。この事件後、マックネイル社は全米の店頭に陳ぶタイレノールカプセルを回収したのである。
1985年には、同じような毒入り事件がミネアポリスで発生する。こんどはSK&F社(現在のグラクソ・スミス・クライン)のコンタックをはじめとするテルドリンとディータックが狙われた。店頭に陳んでいるカプセルを開き、殺鼠剤のワルファリンを混入した事件だった。犯人はまもなく捕まったが、その動機は株価変動を利用しての金儲けにあったという。SK&F社の損害額は800万ドルにも上っている。カプセル剤型のOTCは、犯人によって開封さないよう医薬品ボトルを缶詰にしてまで自己防衛にあたった時期もある。
1986年には、ワシントン州でエキセドリンカプセル(ブリストルマイヤー・スクイブ)とアナシン3(アメリカンホームプロダクツ)が犯人の標的となった。いちど開封したら二度と合体できない超音波密封カプセルであったにも関わらず、犯人は固いカプセルに注射針を使って青酸化合物を混入させたのである。州政府としては、直ちにカプセル剤の販売禁止令を出し、全てメーカーに返品するか廃棄処分にすることを命じた。以後、店頭に残された商品で事故が起きればすべて小売店側の責任となったのである。